審査員からのメッセージ
モニカ・ビンチク
モニカ・ビンチク
メトロポリタン美術館アジア美術部日本工芸アシスタント・キュレーター
「19世紀中頃、最初の装飾美術の公立博物館であるロンドンのサウス・ケンジントン博物館(現 ヴィクトリア&アルバート博物館)とウィーンのオーストリア美術工業博物館(現 MAK オーストリア応用美術博物館)が設立された際、第一の使命は職人や製造業者を教育すること、そして公衆に優れた感覚の原則を広め、クラフトマンシップの地位を向上させることでした。両博物館が日本の装飾美術を収蔵し、それに続いて欧米の他の多くの機関と博物館が手本にしました。のちに起こるアール・ヌーボーやアール・デコ様式の流れは、西洋諸国と日本のアーティストの間の活発な美的交流を示すことになりました。20世紀後半はデザインや国際的な動向の発展に隆盛がみられました。現在、21世紀においては日本の装飾美術(工芸 Kogei)の定義や機能を再考し、社会的役割と同様に博物館コレクションでの表現法についても再検証する良い時期といえるでしょう。」
チョ・ヘヨン
Courtesy of the Takagamine
Forum, Kanazawa 2017
チョ・ヘヨン
韓国工芸デザイン文化振興院 事務局長、元アートディレクター
「現代では、木工やガラス、染織、陶磁、新素材において、これまでとは異なった技術的発展をしつつあります。ものづくりの新しい技術と息の長い技術(先人から代々、私たちに引き継がれてきた技術)を比較することは、未来に向かって進歩する方法をみつけるために、今日極めて重要です。金沢ではそういったすべての利点を併せ持ち、とても効果的に受け継がれています。今の若い作家は未来に進むために、先人から学ぶべきです。尊敬や忍耐、文化財への理解に関するすべてのことを。過去は私たちを手引きし、未来は私たちを導き、現在は私たちを見つめます。」
外舘 和子
外舘 和子
工芸評論家、多摩美術大学教授
「20世紀の後半から世界各地で『工芸』の捉え方に変化が見られるようになりましたが、21世紀に入り、いよいよそうした新たな工芸表現がグローバルに世界各国で展開されるようになりました。ある素材を起点とし、各作家がそれぞれにその素材を理解し、素材との独自の結びつき方を工夫し、技術を駆使してまだ見ぬ新鮮な表現へと至る――作者の身体性と素材とが格闘し、かつ共同して生み出される実材表現の可能性と豊かさに出会う場として、金沢・世界工芸トリエンナーレに大きな期待を寄せています。」
大樋 陶冶斎
大樋 陶冶斎
陶芸家、文化勲章受章者、日本芸術院会員
「現代工芸は更なる斬新な創意が望まれる。」
中川 衛
中川 衛
金工作家、重要無形文化財 彫金 保持者
「現在、工業分野から現代アートまで、工芸技法が持つ可能性の拡がりがみられます。本トリエンナーレでは新しい作風、創造性豊かな作品、これからの工芸を提案する作品と数多く出会えることを期待します。」
島 敦彦
島 敦彦
金沢21世紀美術館 館長
「工芸的という言葉は、現代美術の世界ではこれまで誉め言葉ではなかったが、広い意味で手仕事の重要性を再認識する機会がこの20年ほどの間に飛躍的に増えたように思います。事実、狭い枠組みでの工芸の垣根を軽々と超える作り手が、生まれつつあるように感じます。『越境する工芸』とは、工芸とデザインや現代美術などの諸分野との相互交通というよりは、既成の価値観に捉われない意識を持ち続け、斬新な提案に挑戦する精神的な越境のことを指しています。その実現はなかなか難しいことですが、是非多くの皆さんの意欲的な取り組みを期待したい。」