審査員メッセージ

モニカ・ビンチク

メトロポリタン美術館アジア美術部日本工芸ダイアン・アンド・アーサー・アビー・アソシエイト・キュレーター

日本の工芸と染織を専門としている。2008–09 年メトロポリタン美術館でジェーン・アンド・モーガン・ホイットニー・リサーチフェローとなる。その後、立命館大学(京都)にて研究助手として勤務。同大学にて日本の漆芸研究で2つ目の博士号を取得。メトロポリタン美術館のアンドリュー W. メロン・キュレトリアルフェローとして、2013–15 年に漆芸、染織、陶磁、根付についての調査を担当。展覧会「着物の近代史」(2014 年)を共同企画、主な担当展覧会に「日本美術の発見:アメリカ人コレクターとメトロポリタン美術館」(2015 年)、「日本の竹工芸:アビー・コレクション」(2017 年)と「京都―芸術的創造力の都」(2019 年)がある。現在、江戸後期から1930年代にかけての着物の歴史に焦点を当てた展覧会を企画している。また、日本の工芸と収集歴に関して多数執筆。2018 年にはダイアン・アンド・アーサー・アビー(ニューヨークの日本竹工芸コレクターとして知られている)が、メトロポリタン美術館アジア美術部で日本工芸を専門とするキュレーター職創設という寛大な寄付をし、多大なる貢献をした。

メッセージ

今、私たちは工芸分野でのパラダイムシフトを目の当たりにしている。芸術作品は、これまでそれらを構成してきた伝統的な形式、素材、ジャンルによって正確に記述することはもうできないだろう。これはクラフトマンシップやオブジェ、そして現代文化における工芸作品の役割について、私たちの思考を広げていくエキサイティングな瞬間である。金沢・世界工芸トリエンナーレは、工芸の現在と未来について活発に議論するための素晴らしい場を提供する。この国際コンペティションは幅広い領域の作品に光を当てるものであり、審査で関われることを楽しみにしている。


Photo: C2 Artechnolozy Dongup Kwak, Leica.

チョ・ヘヨン

統営国際トリエンナーレ キュレーター、国際陶芸アカデミー(IAC)会員

1969年韓国ソウル市生まれ。英国・ブリストルの西イングランド大学アート・デザイン校にて陶磁の優等学位を取得。ソウルの梨花女子大学校にて陶磁の修士号を取得、また同大学にて美学・ビジュアルアーツの博士課程を修了した。「京畿道国際陶磁ビエンナーレ2013」では国際委員、2016年「韓国の現代陶芸」(ベルナルド財団、リモージュ、フランス)のゲストキュレーター、2015年清州国際工芸ビエンナーレのアートディレクター、2017-2018年「韓国の現代陶芸」(ヴィクトリア & アルバート美術館、英国)のゲストキュレーター、ミラノデザインウィークの「伝統と革新:韓国工芸展2017」、その後韓国工芸デザイン文化振興院事務局長を務めた。韓国で開催されるロエベ・クラフト・プライズ 2022ではコミッショナーを務める。

メッセージ

金沢・世界工芸トリエンナーレは、今回で5回目を迎え、工芸分野において世界的にも評価の高い公募展へと発展してきた。工芸における金沢のポジションは際立っており、そうしたこの公募展の高い評判は応募者のレベルからもうかがえる。また、金沢21世紀美術館を会場に開催されたこれまでの展覧会は毎回新鮮で、さまざまな展示作品を通して革新性と創造性を示してきた。金沢における工芸の価値は、世界のどこにも比類のないものであり、真に評価され、尊敬されている。
第5回の成功を祈念するとともに、この重要なイベントに再び多くのみなさんが応募されることを願っている。


Photo: Yo Yang

林曼麗

財団法人国家文化芸術基金会 理事長、国立台北教育大学 名誉教授、元国立故宮博物院 院長

東京大学大学院教育学研究科博士。財団法人国家文化芸術基金会理事長、国立台北教育大学名誉教授。過去に、台北市立美術館館長、国立故宮博物院院長などを務める。台湾美術史の研究ならびにその教育活動、国際的な展覧会のキュレーション、企業とのタイアップ事業のディレクションなどに、長年携わっている。2011年に国立台北教育大学にて北師美術館を立ち上げ、新しいミュージアム像の構想を提示。同美術館で、実験的かつ分野横断的な展示や舞台芸術公演を多数企画しているほか、地域に開かれた場づくりにも力を入れている。

メッセージ

工芸とは人とモノを緊密に結んできた緒であり、モノの働きによって文明がつくられ、人類の文化が躍進した。フランスの社会人類学者のレヴィ=ストロースが指摘したように、技芸こそ宇宙のなかで自分らしくいられる場所なのである。工芸はこれまでも、人と他者、人と自然、人と環境を引き合わせ、己との対話を促し、あらゆる相関関係のなかで、なくてはならない大切な役割を担ってきた。伝統技能と現代のモノづくりを、クロスオーバーさせて深化する金沢・世界工芸トリエンナーレは、枠に囚われない、想像を越えた創作表現の可能性を、この先も示し続けてくれるだろう。


唐澤昌宏

国立工芸館長

1964年愛知県名古屋市生まれ。愛知県立芸術大学大学院美術研究科修了。愛知県陶磁資料館(現、愛知県陶磁美術館)学芸員を経て、2003年に東京国立近代美術館主任研究員。2010年に工芸課長。2020年より現職。2018年第39回小山冨士夫記念賞(褒賞)受賞。専門は近・現代工芸史。日本陶磁協会賞選考委員。著書に『窯別ガイド日本のやきもの 瀬戸』(淡交社)、共著に『日本やきもの史』(美術出版社)、『やきものを知る12のステップ』(淡交社)など。主な企画・監修に、「青磁を極める―岡部嶺男展」(2007年)、「現代工芸への視点―茶事をめぐって」(2010年)、「日本伝統工芸展60回記念―工芸からKŌGEIへ」(2013年)、「青磁のいま―受け継がれた技と美 南宋から現代まで」(2014年)、「The 備前―土と炎から生まれる造形美―」(2019年)、「近代工芸と茶の湯のうつわ―四季のしつらい―」(2021年)など。

メッセージ

かつて「工芸的」という言葉は、広く美術の世界で作品を揶揄するマイナスの意味合いを持つ言葉として用いられた。しかし現在(いま)ではトレンドワード的に、つくり手の造形言語としてプラス思考を盛り込む重要な言葉となっている。そこには鑑賞者の眼だけではない、これまでの価値観にとらわれないつくり手の造形思考を大切に見つめる動きがあるからだ。これからの「工芸的」を映し出した作品に期待したい。


青柳正規

石川県立美術館長、多摩美術大学 理事長、元文化庁長官

1944年大連生まれ。古代ローマ美術・考古学を専攻。東京大学文学部教授、国立西洋美術館館長、文化庁長官などを務め、現在、東京大学名誉教授、東京藝術大学特任教授、日本学士院会員、山梨県立美術館館長、学校法人多摩美術大学理事長、奈良県立橿原考古学研究所所長、東京オリンピック・パラリンピック 文化・教育委員会委員長、石川県立美術館館長、他。50年に亘りイタリアの古代ローマの遺跡発掘に携わる。国内では、日本放送協会放送文化賞(2011年)などを受賞、紫綬褒章(2006年)、瑞宝重光章(2017年)受章、文化功労者顕彰(2021年)。海外ではいずれもイタリア にて、Sebetia Ter国際賞(2008年)、Torquato Tasso国際賞(2017年)、Amedeo Maiuri 国際考古学賞(2019年)などを受賞、イタリア共和国功績正騎士勲章(2002年)受章。著書は、『皇帝たちの都ローマ』、『ローマ帝国』、『文化立国論』、『人類文明の黎明と暮れ方』他。

メッセージ

21世紀前半の世界の共通言語は「持続可能性」「多様性」「しなやかな強さ」である。工芸は、自然界にある素材に伝統的な技法を用いて作りあげられ、大量生産や工業生産とは違う手業によって現代のモノ作りにも多様性を与えている。しかも細々とはいえしなやかに生き続けている。まさに現代が求める価値観を具現化しているのが工芸なのである。そのことを「金沢・世界工芸トリエンナーレ」で継承し、実証したいと考えている。


山村慎哉

メッセージ


中川衛

金工作家、重要無形文化財「彫金」保持者

1947年石川県金沢市生まれ。彫金の技法のひとつで、石川県に伝わる伝統工芸「加賀象嵌」の第一人者。日本伝統工芸展「日本伝統工芸会保持者賞」受賞(2001年、2003年)。MOA美術館第13回岡田茂吉工芸部門大賞受賞(2002年)。重要無形文化財「彫金」保持者(人間国宝)に認定(2004年)。メトロポリタン美術館(2008年、2020年)、大英博物館(2010年)に作品が収蔵される。紫綬褒章(2009年)、瑞宝中綬章(2018年)受章。現在は精力的に作品制作に励むほか、金沢職人大学校、金沢卯辰山工芸工房で指導をするなどして後進の育成にも力を注いでいる。金沢美術工芸大学名誉教授。

メッセージ

人々の物への価値観、生活様式の多様性など変化してきている。それに伴い工芸の範囲も拡がり、より芸術性豊かなものを求められる。本トリエンナーレでは新感覚な作風、創造性豊かな作品、若い方の活力ある作品が各国から多く提案され、見る方、作る方々、あるいは工芸業界に今後の工芸作品の方向性の一つの提示となれば幸いと思っている。大いに期待している。


十一代大樋長左衛門

メッセージ