展覧会レポート

2010

第1回 金沢・世界工芸トリエンナーレ
テーマ:工芸的ネットワーキング

会期:2010年5月8日~6月20日
会場:リファーレ2F、金沢21世紀美術館 市民ギャラリーA
金沢21世紀美術館 市民ギャラリーAの会期は2010年5月8日~5月16日

ディレクター: 秋元雄史(金沢21世紀美術館 館長)

キュレーター: 張清淵(チャン・チンユン)(陶芸家、キュレーター、台南芸術大学 副教授)
伊東順二(富山大学芸術文化学部 教授、美術評論家、アートプロデューサー)
金子賢治(茨城県陶芸美術館 館長)
大樋年雄(陶芸家、ロチェスター工科大学客員教授、国際陶芸アカデミー会員、日展会員)
秋元雄史

アーティスト数: 51

来場者数: 22,855人

特設サイト: https://kanazawa-kogeitriennale.com/2010/

秋元雄史をディレクターとし、5人のキュレーターによる展覧会とシンポジウムを開催します。時代とともに変化する工芸の位置づけや枠組みを問いながら、新たに生まれてくる新しい時代の工芸を金沢へ、そして世界へ紹介します。


工芸的ネットワーキング

秋元雄史

今日の工芸は、技術の集約物であると同時に、ある技術的な態度を伴った自己言及的な芸術概念を背後に持った産物でもある。だから、それ自体が常に「工芸とはなにか」という問いを含み、またそれは工芸という概念の補強、あるいは解体といったベクトルを持っている。その意味では、工芸は明らかに近代芸術の範疇である。
工芸概念の補強に向かう動きを「原理主義型」、もう一方の解体に向かう動きを「多様型」としてみると、それぞれが双方の動きによって、ここでは詳細な説明を省くが、実は近代に生まれた「工芸」という概念についての表裏を担っている。工芸が問題視するのは大方この部分である。しかしここで問いたいのは、外に開く工芸の可能性であって、工芸の定義ではない。そのためには、いったん工芸というカテゴリーを取り払って、自由に工芸を眺めることが必要だ。
では、どのように進めるか。
“工芸的な”と形容できる内容、技術、アイディアをクローズアップすることから始めたい。昨年のプレ展「金沢の工芸の現在」*で分かったように、工芸とそれ以外を分かつ鍵となるのは生産様式、つまりその周辺を含めた技術である。どのような技術が集積しているかということである。だからそれらがどんな可能性を作り出しているか、という観点で工芸の展開を考えていく。もし工芸の自己言及的な排他性を抜きにして、「工芸的な技術」だけを取り出すことができるならば、制作はどれだけ自由に幅広いものになるであろうか。そういう観点で展覧会を行う。
冒頭にも記したように、本展は、「工芸的なもの」、「工芸的な技術」の拡がりと可能性に見当をつけるための(範囲には、ある限定を伴うが)場を提供するものである。そして、それが見る側に新たな工芸的なものの発見を提供できれば幸いである。
素材と技術が高い水準で調和した時に生まれるモノの状態やそれが作り出す空間の様子を工芸的な世界と呼ぶ。そんな特別な空間に出くわしたとしたら、知覚が解放されて、たぶん世界は普段見ているよりも、より現実的に、美しく、素敵に感じられるだろう。物の直接性が強調されて、細部が知覚へと訴えかけてくる。それは五感の明らかな解放であろう。工芸的な、このような経験の場所を作り出したい。
その上で、工芸的ノッド(結束点)とそれによるネットワーキングを問題にする。隣接する他カテゴリーである建築、デザイン、現代美術と工芸を大きなネット上にあるものとして広くとらえ、工芸的技術によって、新しいノッド(結束点)を作り出している作家の作品を紹介していく。ここでは工芸からだけでなく、さまざまな分野からのアプローチがあるだろう。ノッド(結束点)が工芸的技術によって生まれているのであれば、どのようなカテゴリーでも構わず、それらを「工芸的なもの」と呼ぶ。それらによって、狭義の工芸作品ではなくて、工芸的なものの考え方や技術の持つ可能性をとらえていく。
また、企画側の視点も多様なものにするために工芸の研究者、現代美術の研究者、工芸作家らによって進行させる。
会場は2会場とし、リファーレを第1会場、金沢21世紀美術館市民ギャラリーを第2会場とする。会期の短い第2会場は、第1会場の作家をダイジェスト的に紹介する。なお、今回、リファーレの会場構成はnendoに依頼した。仮設的なテントを空きビルに挿入するという方法は、建築をより軽く、自由な存在にした。それによってこれまで付きまとっていたサイトの問題(重々しさ、手間)から自由になった。設置から撤収までが短時間ででき、コンパクトで移動性に長けている。それに既製品の転用によって、デザインを含めた空間の様子が分裂し、サイトが変容する。これは絵画におけるコラージュの手法に近いのではないか。工芸的なるものを脅かすものが高度消費社会における物の在り様であるとすれば、nendoの会場構成は、設置される工芸作品にとって、荒海で一時の休息を約束する避難所のようでもある。

*「金沢の工芸の現在」展
会期:2009年10月13日〜25日、会場:金沢21世紀美術館 市民ギャラリーA


参加アーティスト

青木千絵、張清淵(チャン・チンユン)、チェ・ジェウク、ちゅう右衛門、歐汝明(デレク・アウ)、藤原絵里佳、原智、橋本真之、橋本夕紀夫、徐玫瑩(シー・メイイン)、徐永旭(シー・ヨンシー)、黄文英(ホアン・ウンイン)、今泉今右衛門、板橋廣美、上出長右衛門窯、上出長右衛門窯+丸若屋、上出惠悟、加藤良将、キム・ミョンリ、小曽川瑠那、隈研吾、ミナ ペルホネン、見附正康、中川衛、中村信喬、中村卓夫 C-unit 佐藤 卓、中田博士、中島晴美、nendo、新里明士、小笠原森、扇田克也、大樋長左衛門(年朗)、大樋年雄、岡田直人、岡田直人+猿山修、坂井直樹、釋永陽、塩谷良太、城谷耕生、高村宜志、竹村友里、田中信行、寺井直次、三代 德田八十吉、辻和美、辻和美+ factory zoomer、植埜貴子、山村慎哉、イ・スギョン、張凌雲(ツァン・リンユン)

イベント

シンポジウム「工芸的ネットワーキング」
2010年5月8日  会場:金沢21世紀美術館 シアター21
パネリスト:張清淵(チャン・チンユン) 、伊東順二、金子賢治、大樋年雄
モデレーター:秋元雄史

ワークショップ「KUTANI SEAL WORKSHOP」
2010年5月29日  会場:リファーレ 2F
企画:KUTANI SEAL PROJECT(上出惠悟+丸若屋)

レクチャー「日本の工芸の世界化は可能か?」
2010年6月12日 会場:金沢21世紀美術館 レクチャーホール
講師:青柳正規(独立行政法人国立美術館理事長、国立西洋美術館長)

関連イベント 二十一世紀塾 二〇一〇
「KOGEI、いろいろ ~芸術のなかの工芸、生活のなかの工芸、産業のなかの工芸、地域のなかの工芸 」

2010年6月19日 会場:金沢21世紀美術館 シアター21
ゲストスピーカー:ジョー・アール(ジャパン・ソサエティ・ギャラリー(NY) ディレクター)
モデレーター:秋元雄史
パネリスト:原智、中田博士、田中信行、辻和美、山村慎哉
主催:金沢21世紀美術館[(財)金沢芸術創造財団]

プレ展:「金沢の工芸の現在」展
会期:2009年10月13日~25日 
会場:金沢21世紀美術館 市民ギャラリーA

2010年に開催する第1回 金沢・世界工芸トリエンナーレに向けたプレ展として、金沢市工芸協会所属作家の選抜作品や金沢21世紀美術館の所蔵作品をはじめ過去開催されてきた「世界工芸コンペティション・金沢」の受賞作などを展示し、金沢の工芸の現状を概観した。

Photo: ANO Daici



展覧会カタログ

第1回金沢・世界工芸トリエンナーレ
工芸的ネットワーキング

定価1,000円(税込)

コンテンツ - 出品作家および作品紹介
- 秋元雄史「工芸的ネットワーキング」
- 各セクション解説文
- 出品リスト

仕様:183×230 mm
頁数:96頁
言語:日/英併記
アートディレクション:nendo
デザイン:吉本泰則(能登印刷株式会社)
編集:佐々木奈津、吉田智史(シナジー株式会社)
発行:金沢・世界工芸トリエンナーレ開催委員会
発行日:2010年5月8日

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