「第4 回金沢・世界工芸トリエンナーレ」は「越境する工芸」をテーマに、公募展と企画展で構成されます。公募展では、時代とともに変化し拡がる工芸芸術を世界的視野でとらえ、表現力豊かな新しい工芸作品を紹介します。企画展では、工芸を従来の枠組みから解放して、より広い視野でとらえます。工芸の技術的な精緻さだけを追い求めるのではなく、何よりも同時代をどのように観察し、表現に結びつけるのか。素材も考え方も多様な価値観による作品を一堂にご紹介します。
公募展「2019 金沢・世界工芸コンペティション」
大賞:菅野有紀子
優秀賞:青木千絵
奨励賞:畑石修嗣
審査員特別賞:藤掛幸智, 廖勝文, 中田真裕, 大槻洋介, 歐立婷, 手塚まゆみ
入選:
青木岳文, Kay APLIN, 浅野恵理子, 陳梅娜, 鄭亞平, 鄭用軫, Marc FISH, Kinga FÖLDI, Marie-Noëlle FONTAN, 藤野征一郎, 福田笑子, 福喜代, 古川千夏, 花塚愛, 井本真紀, 川瀬理央, 金淑善, 草間喆雄, 梁晊瑋, 松藤孝一, 松本千里, 松谷文生, Metal Research Lab, 宮島正志, 水代達史, 中井波花, 西川雅典, 西村圭功, 小笠原森, 岡本昌子, 奥村志暢, 小野彩香, Jennifer ROBERTSON, 三枝一将, 酒井智也, 佐々木雅浩, 佐藤典克, 佐藤静恵, 佐藤友佳理・寺田天志, Lotte SCHLOER, 柴田あゆみ, 鹿田洋介, 清水香, 五月女晴佳, 竹内君則, 丹羽シゲユキ, 田中謙太郎, 田中悠, 田代璃緒, 戸叶惠介, 豊海健太, 坪内真弓, 塚田美登里, 津守秀憲, 鶴野俊哉, 上前功夫, 鵜飼康平, Youjin UM, 山田武志, 山本真郎, 山浦陽介, 吉田まゆ, 余成忠, 由良りえこ, 曾祥軒
審査員:
モニカ・ビンチク(ニューヨーク・メトロポリタン美術館アジア美術部 日本工芸 ダイアン・アンド・アーサー・アビー・アソシエイト・キュレーター)
チョ・ヘヨン(韓国工芸デザイン文化振興院事務局長、元アートディレクター)
外舘和子(工芸評論家、 多摩美術大学教授)
大樋陶冶斎(陶芸家、文化勲章受章者、日本芸術院会員)
中川衛(金工作家、 重要無形文化財 彫金 保持者)
島敦彦(金沢21 世紀美術館館長)
企画展「越境する工芸」
越境する工芸
島 敦彦
金沢21 世紀美術館館長
「第4 回金沢・世界工芸トリエンナーレ」企画委員
今年の3 月初旬、「金沢・世界工芸トリエンナーレ」の準備のために、ロンドンとマドリードを訪問した。その際に、ロンドンの大英博物館で興味深い展示に遭遇した。三菱商事日本ギャラリーにおいて開催された「Japan」と題した展覧会で、紀元前日本の古代から現代の日本マンガにいたる5000 年の歴史を、わずか3 つの展示室で簡潔に構成したもので、大英博物館のコレクションを中心にした展示であった。
まず驚かされたのは、展示の冒頭に、デジタル・カウンターの作品で知られる現代美術家宮島達男の《Time Waterfall-panel #8 (Blue)》(2017 年)が置かれていたことだ。縦方向にゆっくりと流れるデジタル数字の滝に、日本のハイテクノロジーのイメージと悠久の時間の流れとを重ね合わせようとしたようである。
展示構成は概ね古代から現代へと時間軸に沿って展開するが、時折変則的な展示が行われた。たとえば武人を象った埴輪と陶芸家の細野仁美の近作、あるいは江戸時代に明珍家によってつくられた鉄製の自在置物(昆虫や蛇など)と金工作家の森順子の近作とがそれぞれ同じケース内に対比的に並べられた。素材の持ち味が、制作の意図や時代を超えた共鳴を感じさせ、鑑賞者が自由に想像力を膨らませて見ることができる工夫が施されていたのである。
今回の企画「越境する工芸」は、古代と現代を対比するものではないけれども、大英博物館での展示から大いに刺激を受けた。ジャンルというものを緩やかに捉え直すきっかけにもなった。たとえばこれまで現代美術の分野で語られてきた作家たちの作品を、工芸的な視点で再発見する場として、あるいは工芸としか分類されない作品を現代美術的な視点で再評価することはできないか。ジャンルの越境であると同時に考え方の越境を目論んだのである。企画委員会は、私以外に、金沢クラフトビジネス創造機構理事長の福光松太郎、金工作家の中川衛、陶芸家の十一代大樋長左衛門によって構成され、自由に議論を重ねて企画の検討を行った。
選考基準は必ずしも厳密なものではないが、土であれ、金属であれ、布であれ、さまざまな素材の特質が十分活かされ、造形的な魅力はもちろん、斬新な発想とある種の批評性を感じさせる独自の視点を持つ作家と作品を選んだ。
個別に招待作家として出品をお願いしたのは、碓井ゆい、西條茜、徂徠友香子、髙田安規子・政子、満田晴穂ら日本の若手に加え、ロシア生まれでデンマークを拠点に活躍するマリア・コシェンコバと台湾の阮文盟だが、それに金沢21 世紀美術館のコレクションからアニッシュ・カプーア、グレイソン・ペリー、照屋勇賢、宮永愛子の4 名の作品を選出した。さらにスペインのマドリードを拠点に世界的なブランドとして知られるロエベが主催する「ロエベ クラフト プライズ2019」の受賞者3 名(大賞:石塚源太、特別賞:高樋一人、ハリー・モーガン)の受賞作が並ぶこととなった。
出品者すべてをひとくくりに説明することはできない。ふだんは工芸に軸足のある作家もいれば、これまで工芸の文脈で語られることのなかった現代美術の作家も数多い。しかし、ご覧いただく方々には、そうした枠組みにとらわれず何よりもまず虚心坦懐に作品に向き合うことをお薦めする。素材の魅力や形態の面白さを楽しんでもらいたいし、その背景にある作者の思いや考え方にも触れていただきたい。
参加アーティスト
石塚源太, アニッシュ・カプーア, マリア・コシェンコバ, 満田晴穂, 宮永愛子, ハリー・モーガン, グレイソン・ペリー, 阮文盟, 西條茜, 徂徠友香子, 髙田安規子・政子, 高樋一人, 照屋勇賢, 碓井ゆい